2018年度研究会(第32回~35回)

第35回外国語教育質的研究会

日時:2019年3月2日(土)14:00-17:00

 

場所:貸会議室『W+』(秋葉原駅近く)

 

1. 研究発表 14:00-15:25 

 

題目:英語学習を通して学習者が自己肯定感を身につけていくことを支える要因

 

発表者:寺田典子(東京学芸大学大学院)

 

概要:本発表では英語学習を通して学習者が自己肯定感を身につけていく事を支える要因は何かに焦点を当てる。学習活動において知識・技能の習得に情意面からの影響が大きいと言えよう。情意面の中でも自己肯定感は学習そのものの習得に大きな影響を及ぼすだけでなく、学習者のその後の人生を支えていくといった意味でもその重要性に気がついている教師は少なくないと思われる。各教科学習を通した自己肯定感についての研究はあるものの、それらは、task/situationalな自己肯定感の研究にとどまっており、学習者のglobal な自己肯定感については言及されていない。本発表では、一定期間の英語学習を通してケースとした学習者がglobalな自己肯定感を身につけていく可能性を支える要因についての研究結果を報告させていただくこととする。今後の研究への御示唆を賜われれば幸いです。

 

2. 話題提供 15:40-17:00 

 

題目:外国語教育質的研究における研究目的と研究課題をどのように設定すべきか-国際誌における事例からの示唆―

 

発表者:髙木亜希子(青山学院大学)

 

 

概要:本発表では、Takagi & Tojo(2018)に基づき、外国語教育質的研究における研究目的と研究課題の設定のあり方について概観する。最初に、研究目的と研究課題に関わる用語を整理し、これらに含めるべき要素について論じる。次に、10年間(2006~2015年発行)に、主要国際誌3誌(TESOL Quarterly, Applied Linguistics, Modern Language Journal)に掲載された質的研究論文226報(Tojo&Takagi, 2017) における研究目的と研究課題の傾向と特徴についての分析結果を示す。参加者は、複数の実例に基づき、研究目的と研究課題の設定と論文での提示のあり方について理解を深めることができるだろう。

第34回外国語教育質的研究会

日時:2018年12月22日(土)14:00-17:00

 

場所:青山学院大学15号館3階15301

 

1. 研究発表 14:00-15:25 

 

題目:Exploring L2 learners’emotions and emotional strategies through multiple lenses

 

発表者:守屋亮(早稲田大学大学院・日本学術振興会特別研究員DC)

 

概要:感情は人間の活動と強く結びついており、外国語学習に於いてもそれは決して例外ではない(Gkonou & Miller, in press)。事実、第二言語習得(SLA)の分野でもアイデンティティや自律学習、主体性に関する研究が脚光を浴びつつあるが、感情はそれらを構成する上で欠かせない重要な要因であることが通底している(e.g., Miyahara, 2015; Yamashita, 2015; Miller & Gkonou, 2018)。また、Vygotskyの考えに端を発する社会文化理論(c.f., Lantolf, Poehner, & Swain, 2018)でも、個々人による経験の質を表すpererzhivanieという概念を語る際に感情を抜きにすることはできない(Fleer, González Rey, & Veresov, 2017)。しかし、Swain (2013)が述べるように、SLAの分野で感情は未だ十分に研究されているとは言えず、このことは言語学習アドバイジング(c.f., Kato & Mynard, 2016)という文脈で感情のサポートが求められていることとも一致する(Tassinari, 2016)。そのため、本研究ではGross (2015)のemotion regulationを契機とし、感情ストラテジーや感情のサポートを行うにあたっての示唆を目的とする。

 本発表では、先ず感情・言語学習アドバイジング・社会文化理論の三者がどのように関わり合っているのかを簡潔に述べ、次にMYEというアンケート(Gkonou & Oxford, 2016)とidiodynamic method (c.f., Gregersen, MacIntyre, & Meza, 2014)という手法を組み合わせたケーススタディを紹介する。参加者は高校生2名であり、アンケート調査の後には半構造化インタビューも実施した。Gross (2015)を含む複数の観点から感情を多面的に分析し、当日は参加者と結果を共有して新たな視点や今後の研究の方向性等を共構成していければ幸いである。

 

2. 研究発表 15:40-17:00 

 

題目:Investigating L2 learners' reading strategies of their selected source texts for writing MA module assignment essays

 

発表者:上條武(立命館大学)

 

概要:L2学習者がsource textsをライティングに使う過程を調べる研究は、writing from sourcesと言われ、近年英語圏の大学、大学院で調査が行われている。Cumming, Lai, and Cho (2016) はStudents’ writing from sources for academic purposesで、過去10年の代表的な69本の研究論文レビューからsource useの研究が5つのclaimsに分かれる結果を示した。それは1) 困難を経験しながらも, ストラテジーによりwriting from sourcesに対処する、2) 以前の経験や知識がwriting from sourcesに影響を与える、3) L1, L2のwriting from sources使用の違い、4) タスクのタイプによる影響、そして5) writing from sourcesにおけるinstructionsである。上記研究で最も多い1)のカテゴリーでは、英語圏でL2学習者の調査としてCommunities of Practice (Wenger, 1998)を枠組みにしたエスノグラフィーが使用されている。さらに多くの研究がsource textsからの内容や表現が反映された学習者のライティングデータを中期, 長期的にディスコース分析で評価している(Beaufort, 2014; Keck, 2014; McCarthy, Young & Leinhardt, 1998; Thompson, Morton & Storch; Shi, 2010, 2011)。しかし現在L2 students’ writing from sourcesの研究では、L2学習者がアカデミックコミュニティで新しい実践を行うCommunities of Practiceという観点から非常に重要なリーディングの過程とストラテジー使用が十分に探索されていない。

 このようなことから、発表者はイギリス大学院のMA TESOL/Educationコースで、いかに成功したL2学習者がタスクへの理解を高め、選別したsource textsに対して批判的リーディングでエッセー主張の構築を行うかについて探索的な研究を行った。参加者はMAコース在籍L2学習者7名で、2名の成功した学習者を選別した。手法ではコースモジュールの前半とモジュール受講後にインタビューを行い、Communities of Practiceの枠組みとthematic analysis (Braun & Clarke, 2006)によるコーディングを採用した。発表では、結果としてcodes, categories, themesに分けたデータをL2学習者ごとに示し、学習者インタビューデータからのExtractsを見ながら、writing from sourcesに対応するために必須となるリーディングの過程とストラテジー使用の分析を提示する。

 

 なお本研究は2017年9月より2018年3月末まで発表者が、イギリスの大学において客員研究員として行ったものであり、客員研究員としての研究とはどのようなものかについても発表後半に時間がある範囲で説明をする。

第33回外国語教育質的研究会

日時:2018年9月22日(土)14:00-17:00

場所:青山学院大学17号館3階17305

 

1. 研究発表 14:00-15:25 

 

題目:中級英語学習者のリーディング・プロセス―統語解析を困難にする要因―

 

発表者:西田晴美(跡見学園女子大学)

 

概要:本発表では中級英語学習者のリーディング・プロセスに焦点を当てる。学習者はリーディングにおいて下位処理過程の統語解析に困難を抱えているとされているが、実際にはどのように統語解析を行っているのか、どのような文構造に対して解析が困難となり、それをどのように処理しているのか。これらの問いを解明することにより、統語解析に成功しない要因を考察する。3名の対象者にリーディング・テストを実施すると共に、英文をどのように読み進めたのかを知るためにインタビューと質問紙調査を行い、これらのデータをケース・スタディの方法を用いて質的に分析した。対象者による文処理方法は、「文構造を意識的に考えながら行う」、あるいは「文構造をほとんど考えないで行う」の2種類に分かれた。文構造を考えながら処理を行った対象者は、統語解析をチャンク単位で行っていたが、チャンキング処理を十分に行わず、それぞれのチャンクが統語的・意味的つながりを持たないで分断されたままになっていることがあった。文構造を考えないで処理を行う対象者は、統語解析への積極的な取り組みがないため、理解できた句や節の意味が統語的に関連付けられないままになっていた。このような文処理の実態から統語解析の失敗を引き起こす要因を考え、リーディング指導、学習に対する示唆を提言する。

 

2. 研究発表 15:40-17:00 

 

題目:授業助言者との関りを通しての教師の成長

 

発表者:森岡将太(広島大学大学院)

 

概要:これまでの若手教師に対する教師教育では、助言をする人と助言される人の間に上下関係が存在し、授業助言者から知識を伝達するような指導が行われていた。しかし、玉井によると社会的権威のあるものからのトップダウン型の指導では、若手教師自身の自発的内省の機会を奪ってしまうことになりかねない。これまでの若手教師への指導のあり方への反省を踏まえて、知識をトップダウン型で与えられるのではなく、教師自身の省察を促すための教師教育が注目されている。

 

本研究では、某市立中学校の若手英語教師(協力者)に対し、筆者が省察を促すような関りをする中で若手英語教師がどのように成長するかを明らかにする。今回の発表は今年度4月から8月までの研究内容をまとめる。数回やり取りをする中で、協力者は自身の英語力に対し漠然とした不安を感じながらも、何をすれば解決するのかといった具体的な解決案や方向性は定まっていないと述べていた。このことを踏まえ、今後月1回のペースで長期的に協力者と関わっていく中で、どのような関りをすれば協力者の成長につながるかについて更に研究を進めていきたい。

第32回外国語教育質的研究会

日時:2018年6月30日(土)14:00-17:00

場所:青山学院大学15号館3階15302

  

1. 話題提供 14:00-15:25 

 

題目:外国語教育質的研究における調査対象の抽出方法

   ―サンプルサイズが1の場合に注目して―

 

話題提供者:髙木亜希子(青山学院大学)

 

概要:質的研究では、合目的的サンプリングの考え方に即して少数の対象者(参加者・事例)を抽出することが一般的である。本話題提供では、東條・髙木(2018)に基づき、サンプルサイズが1の場合に着目して、どのように対象者を抽出するべきか報告する。

Tojo&Takagi(2017)において、2006年~2015年の10年間に外国語教育分野における主要国際誌3種の質的研究論文を分析したところ、調査対象の58%においてサンプルサイズが10以下であり、14%が1であった。そこで、東條・髙木(2018)では、サンプルサイズが1の29報に着目し、調査対象の選択方法とその行程を明らかにした。参加者の皆さんには、29報の論文から抜粋した数例のサンプリングの記述を読んでいただく。本話題提供を通し、サンプリングの具体的方法に加え、サンプリングについて論文にどのように記述すべきか理解を深める機会としたい。

 

2. ワークショップ 15:40-17:00

 

題目:Exploratory Practice の視点から実践を振り返る

 

ファシリテーター:髙木亜希子(青山学院大学)

 

概要:本ワークショップの目的は、探究的実践(Exploratory Practice: EP)についての理解を深め、EPの視点から各自の実践を振り返ることある。近年,教師の成長において教師による実践研究が重要な役割を果たしている。 外国語教育において、改善を目的とするアクション・リサーチでは満足しない立場から、Allwright(2003, 2005)によって提唱された実践研究の方法がEPである。EPは,実践研究の過程において,学習者をパートナーとみなし,教師の日々の実践の営みに統合することで,教師にとって過度な負担とならずに,継続的な探究を目指すものである。本ワークショップでは、リフレクティブ・プラクティス、アクション・リサーチとの違いを区別した上で、EPの要点を概観するとともに、"puzzle"という概念に着目する。次に、参加者の皆さんに実践におけるpuzzleを各自考えていただき、グループで共有する。なお、本ワークショップは、EPの図書、Judith Hanks (2017)からアイディアのヒントを得たものである。

 

参加者は、できれば以下の文献を事前に読んでいただきたい。

Allwright, D. (2003). Exploratory Practice: Rethinking practitioner research in

language teaching. Language Teaching Research, 7(2), 113-142.

Allwright, D. (2005). Developing principles for practitioner research: The case of

 

Exploratory Practice. Modern Language Journal, 89(3), 353-366. doi:10.1111/j.1540-4781.2005.00310.x